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2009年1月13日 (火)

最近読んだ本から

1 『フロスト気質』 (R.D.ウィングフィールド著 創元推理文庫)

 イギリスの作家ウィングフィールドによるフロスト警部シリーズは底抜けに面白い。ロンドンから車で1時間ほどの所にあるらしいデントン市の警察署が舞台だ。
 署長はマレット警視。その下にアレン警部とフロスト警部がいるのだが、アレンはいつも何か事情があってシリーズ中ほとんど登場しない。

 デントン警察署管内ではいつも死体がごろごろ見つかり、子供が次々と行方不明になったり誘拐されたりしている。ほかにも脅迫や性犯罪がひっきりなしに起こる。

 マレット署長は、格好をつけるばかりで組織の長としてはとんと能がない。警察長(日本で言えば県警本部長?)からの電話にはへこへこし、フロストに対してはいつも経費予算を盾に捜査の足を引っ張り、文句ばかり言い、責任は常に回避して、成果は自分のために最大限に利用する。
 フロストを毛嫌いして何とか署から追い出そうとしているのだが、組織の長という立場からすれば無理からぬところではある。

 なにしろ、フロスト警部は型破りのお巡りさんである。型破りどころではない。もう滅茶苦茶だ。
 服装にはまるっきりこだわらず、たばこの灰をまき散らし、指は「やに」でにちゃにちゃしており、汚れた手を服になすりつけて拭く。品のない駄洒落を連発し、署長室を出入りするときは秘書に卑猥な冗談を投げかけ隙があればお尻に触る。署長がいないときに上等の煙草をくすね、請求できない経費の穴埋めにガソリン代をちょいちょい水増しして請求する。
 直感で捜査を進めては失敗を繰り返し、署長の許可なく署の経費予算を超えて超過勤務による捜索に署員を総動員し、目をつけた人物の自宅に捜査令状を取らないで入り込む、ときにはドアを壊してでも。

 多忙のあまり一日のほとんどを署や出先で過ごし、誰もいない家にたまに帰ってもベッドに直行してただ寝るだけ、それも寝たと思うとすぐ電話で呼び出される。
 はちゃめちゃではあるが、フロストにはじつはつらい過去があるのだ。それをときどき切なく思い出す。

 時間観念がなく、職務分掌観念がなく、あれやらこれやら次々に起こる事件に片端から引きずり込まれ自分からもも首を突っ込むから、話はごじゃごじゃに絡まりあいながら進行する。

 まったくだらしのないフロストだが、これがなんとも憎めない。失策や違法な家宅捜索には読んでいてやきもきしてしまう。
 フロストの言うことがまた面白い。どんなときにもつい笑ってしまうことを言う。
 マレットなどはフロストにかかればぼろくそだ。延々と続く叱責は聞いている振りをしているだけでその間中ほかの事を考えている。命令には常にはいと答えて常に守らない。痛快なほどの上司無視。

 本の帯によると、2008年『週刊文春』傑作ミステリーベスト10第1位、『IN★POCKET』総合第1位、『このミステリーがすごい』第2位、だそうだが、むべなるかな。


2 『a killing FROST』 (CORGI BOOKS paperback)

 『フロスト気質』は暮から読み始め正月を挟んで1月に読み終わったのだが、その前にペーパーバック版の本書『a killing FROST』を読んだ。英語版だ。
 インターネットでウィングフィールドの最新刊が出ることを知って、アマゾンに注文したところ発売日前に届いた。
 ほかの本を読んでいたので、取り掛かるまでしばらくころがしていた。読み始めても少し読んではやめまた少し進んでは中断してなかなかはかどらなかったが、そのうちに次第に引きずり込まれてほかの読みかけを脇においてどんどん読み進んだ。

 といって英語に堪能だというわけではない。中学高校のときは英語は得意科目だったが、その後は英語を専攻したわけでも英語を使う仕事に就いたわけでもない。断続的にラジオやテレビの英語講座を聴いたりやさしい英語の本を読んだりしていたとはいえ、英語力は文法にしろもともと少ない語彙にしろ、高校時代の水準よりは当然ながらだいぶ落ちている。
 だから、これを読んでも分からない所だらけだ。それでも、そういう所は分からないままに、この本は面白く読める。
 英語の上達には多読が一番という。受験英語のように一語一句を正確に解釈しながら読む必要はない、むしろアバウトでいいからどんどん読み進むほうがいいらしい。巧遅より拙速(というほど早くは読めないが)。
 そういう観点からするとFROSTシリーズは最適だ。きちんとした推理によって犯人を捕まえるわけではないから細かい部分が分からなくてもあまり困らない。その場面その場面を面白く読めばいいのだ。詳しく読みたいならいずれ出る翻訳を改めて読めばいい。

 筋は例によって例の如しだ。人手不足の中で、ごろごろ出てくる死体と死体の一部、レイプ、少女の連続失踪、脅迫、などなど事件が続発して署もフロスト警部もてんてこ舞いに振り回される。

 混乱の最中に、DCI(Detective Cief Inspector 主任警部?)Skinner(スキナー)が赴任してくる。来るなりフロストのガソリン代請求のちょろまかしを暴いて、それを表ざたにしないことを条件にフロストに他署への転勤を受け入れさせてしまう。署長は大満足。へえ、イギリスでは転勤には本人の承諾が必要なのか。
 不動産屋を呼んでやったから今の家を早く売れの、新任地の住まいを探せのと言われながら、スキナーが引継ぎのために前任地に戻ってしまったので、相変らずすべての事件を一身に背負い込まなければならない。相も変わらず寝る間もほとんどない。


 『a killing FROST』を読んだあと『フロスト気質』を読むと、フロストたちのしゃべる日本語がしばらくの間どうも不自然に感じた。しだいに慣れてきたけれど。
 フロストは女性には「love」と呼びかけ、若い男には「son」と話しかける。それが「嬢や」だの「坊や」だのではどうも落ち着かない。連発されるスラングなども日本語に置き換えるとしっくりしない。
 イギリスが舞台の話は英語で読むのがやはり一番いい。

 英語がうまくなりたいと切に思う。別の言語を習得することは別の文化別の考え方に接することだ。知の楽しみがぐんと広がる。インターネットの世界も一気に開ける。


 フロストシリーズは次のとおり。
1 FROST at Christmas 1984
 『クリスマスのフロスト』 創元推理文庫 1994
2 a touch of FROST 1987 『フロスト日和』 創元推理文庫 1997
3 night FROST 1992 『夜のフロスト』 創元推理文庫 2001
4 hard FROST 1995 『フロスト気質』 創元推理文庫 2008
5 winter FROST 1999
6 a killing FROST 2008


 じつは、『a killing FROST』の刊行を知ったとき、同時に衝撃的なことを知った。作者Wingfieldが前年2007年に亡くなっていたのだ。フロストものの新作はもう出ないのかと思うととてもさびしい。英語版も日本語版も出版されたものはこれでぜんぶ読んでしまった。あとは『winter FROST』と『A Killing FROST』の日本語版が出るのを最後の楽しみにするほかない。
 あと短編が二つあるようだ。ひとつは、光文社文庫の『夜明けのフロスト』というタイトルの短編集で、その中に『夜明けのフロスト』が含まれている(他の6編は別の作者)。もうひとつは、『Just the Fax』が『Fresh Blood II』というアンソロジーの中に入っているらしい。『夜明けのフロスト』は読むつもりだが、『Fresh Blood II』は思案中。

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